一昨日は今年のアカデミー賞の最優秀作品賞を獲得した『それでも夜は明ける』を観てきましたので、その感想を書いていきましょう。

幸せだよ、俺達より…

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≪以下ネタバレ注意≫


…凄い映画でしたね。

カタルシスも感動も無かったけど、究極レベルのその重たい世界観には圧倒された。

アメリカの歴史においては恥の部分であろう奴隷制度をアメリカ人ではないスティーヴ・マックィーン監督が白人に対して遠慮も妥協も無く描ききり、

それをハリウッドの世界が名誉を与える形で(一部を除いて)受け入れたというのは凄いと思う。ハリウッドは本当器がデカいよなぁ…。

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ただ、これは僕個人としての勝手な話ですが、

今作はエンドロールの前にソロモンのその後の紹介はあったものの、

ナレーションらしいナレーションも無く、ソロモン以外の登場人物の内面なり心情面で掘り下げる台詞や回想シーンも無かった事で、

自由黒人が拉致されて奴隷にされたエピソードのひとつをベースにしたドキュメンタリーの映像化・悪く言えば再現ドラマっぽい印象が残った。

また、ドキュメンタリーながらも観る側の心が深く傷つくだけで、これをきっかけに奴隷制度について考える事は、あんまり無いんじゃないか?と思ってしまった。

もちろん、観た後で奴隷制度について考える事が無くても僕の中で今作の評価は高いままで変わらないんですけど、

何せ映画なんだし、もうちょっとだけでもエンターテイメントとしての脚色なり演出を入れておいてほしかったですね。

それでも今作の世界観は揺るがなかった筈だし。

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また、あれだけ重いテーマをじっくりと描いていた割には作り込み方に甘さを感じてしまう要素が幾つか有り、その点においても正直不満が残りましたね。

12年という長いスパンの物語なのにソロモン演じるキウェテル・イジョフォーがビジュアル的に痩せも老けも無かったのがまずひとつ。

迫真の演技には圧倒されたものの…といった感じで勿体なかったなぁ。

残酷としか言い様が無い、奴隷虐待シーンの数々と、それと対比させるシーンの描き方が物足りなかったのがひとつ。

いかんせん演奏シーンが少なくて、奴隷達が歌う歌ほどは、ソロモンにとっての重要なアイテムとしてバイオリンを使いこなせいなかった気がする。

ソロモンがあれだけ辛い思いをしながらも、救われた感があるのはラストの家族との再会ぐらいというのはやっぱり…ねぇ。

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序盤以降はソロモンとパッツィーの組み合わせ以外の奴隷同士の会話が明らかに少なかった影響かもしれないし…もうちょっと、メリハリみたいなバランスはとってほしかった。

僕なんかはたまたま昨年『ゼロ・ダーク・サーティ』における、エグい捕虜の拷問シーンを観ていたから免疫があったものの、

もし免疫が無ければ今作のストーリーとかはほとんど記憶に残らなかったかもしれないし…

奴隷として生き延びる為に文字を書けないと嘘をつき続けて、ご主人様達から疑われ続けるのはいいんですけど、

文字が書けないのにあれだけ美しくバイオリンを弾けて、それをツッコまれる様な台詞のやりとりがなかったのもひとつ。

ソロモンの運命を変えるブラピ演じるバスさんとの淡々とした出会いのシーンが、あまりにも遅過ぎた感があるのもひとつ。

これに関しては、アル中の監督官の白人に裏切られるエピソードとのバランスの取り方があったにしても、

今にして思えば実はクライマックスだったかも知れない、ソロモンが吊るされて爪先立ちを続けて生き延びたシーンであったり、

『石鹸を貰いにいったパッツィーがソロモンとエップスにむち打ちで滅多うちにされる』シーンがあって、

観る側の気持ちがどうしようもないぐらいに沈んだ後に描かれても、となってしまったなぁ…

最後に。

僕は今作を観てこれだけ心が痛みながらも、観た事に対して後悔はしていないんですよね。

それだけ完成度が高いって事なんでしょうけど…不思議なもんですね…

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